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その時々で思うことを書きたいと思います。

整備士問題の本質

はじめに

最近ディーラーでの車検不正や、給料3倍での整備士の引き抜きが話題になっている。

この問題は現時点では整備士業界が話題となっているが、他の業界でも十分に起きる可能性があると考えている。

その背景を自分なりにまとめてみる。

 

問題の背景

報道では整備士不足が原因と言われているが果たしてそれが本当かを明らかにしたい。

アプローチとしては、昔は不正車検をしなくても回っていた者が最近になって回らなくなってきている。つまり、整備士一人当たりが整備しなければならない台数が多くなっているのかで考えてみたい。

ちなみに整備士とは国家整備士?の資格を持っている者の事を指し、資格を持っていないが整備に関わる者を含めて整備要員と呼ばれている模様。

今回、整備士に関するデータは一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(JASPA)が公開しているデータを使用し、その他のデータに関しては国土交通省が公開しているデータを使用する。

前提となる知識

自動車整備士とは

補足となるが自動車整備士という資格について解説しておく。

  • 3級整備士:点検やカー用品の取り付け、消耗品といった基本的な作業を実施する資格
  • 2級整備士:2002年に1級自動車整備士の資格が出来るまでは最上位の資格。ほぼ全ての整備業務が出来る
  • 1級整備士:ハイブリッド車や電気自動車など、旧来の自動車と比較すると特殊な知識を要する整備が出来る

これ以外にも整備士系の資格はあるが、ここでは割愛する。

また、以下の文中では整備士資格保有者を「整備士」と表す。

車検整備に必要な資格

整備士という国家資格があるので、車検を取るためには整備士が整備する必要があると考えるかもしれないが、そこは必要条件ではなく資格を保有していない人が整備しても車検は取得できる。とはいえ、人名が関わってくる整備なので、一般的には有資格者が整備していると考えてよいだろう。

車検とは

一般の人は車検というとディーラーや整備工場に車を預けて、即日もしくは数日で車が返ってくるイメージだと思う。しかし、本来の車検とは整備が完了した車両を車検場に持っていき、そこでテストを受けて合格なら車検完了となる。ただし、すべての車両が車検場に集まるとパンクしてしまうので(推測)、指定工場という車検場と同じ検査ラインを持った整備場でも検査を受ける事が出来る。

自動車検査員とは

上記の指定工場において、検査を担当しているのが自動車検査員であり、こちらも国家資格である。自動車検査員になるためには1級もしくは2級の整備士資格を取得後に整備主任者としての実務を1年以上経験し、検査員教習を受講して、検査員試験に合格して初めてなれる。

検証

公表されているデータによる検証

上記サイトから抜き出したデータを一覧化すると下記の通り。

  • 乗用車(トラックなどはいったん排除)数は微減。
  • 車検整備の受け入れ先となる工場は微増。
  • 整備要員数は微減(ただし有資格となる整備士は微増)

といったことが見て取れる。ただし、0.5%にも満たない変化が社会問題レベルになるとは思えず、基本的には乗用車数も整備要員数も大きな変化が無いと言ってよいと思う。

ちなみに、整備士不足を書いている記事の整備士数のグラフは微妙な減少幅を大きく見せるような細工をしていたw。 貼り付けるわけにはいかないのでGoogleで「整備士数 推移」と入力し、画像検索するとよくわかる。

なお、自動車検査員数の推移も並べようと思ったが、各都道府県レベルのデータしか見当たらなかったため省いている。ただし、指定工場となるためには自動車検査員を置く必要があるため、問題になるレベルの人員減少は発生しないと考える。

 

結論

近年において絶対的にも相対的にも整備士が顕著に減った事実は無い

と結論づけて良いだろう。

本当の原因とは?

整備士不足が事実の場合の仮設

  • 1台にかかる整備時間が増加した
  • 1台整備するのに必要な人数が増加した

これくらいか。

整備士問題が虚実だった場合の仮設

  • 整備士として外国人受け入れを加速させる
  • 一般的な整備士育成学校である専門学校への誘導目当て

こんな感じか。ただ、なかなか入庫出来ない事実はあるようなので、虚実では無いと思う。

仮説の検証

昔と今で変わらないもしくは変化が微小な整備
  • 足回りやブレーキ周りといった基本的なシャシー整備
  • 板金といった外装修理(これは例外あり)
昔と今で変化が大きな整備
  • ハイブリッドユニットやEVユニット
  • 自動運転等に使われる高度なセンサーや、コネクテッドカー等で採用される高度な車内インフォテインメントユニット等の電装系。
仮説の展開

整備内容において昔と今で大きな変化がある部品がある事は確実である。また、これらの整備は特殊な技能や知識を必要とするだろうと推測する事が出来る。

また、最近の車は自己診断が充実しており、特殊な機材で原因を特定したりしている。そして、それらの機材は高かったり扱いに知識が必要などの事情で、いわゆる街の整備工場ではお手上げで、ディーラーや高度な知識と機材を持った整備工場じゃないと整備出来なかったりもする。

問題の本質

ここまで書いておいて最後は仮説としてまとめる事になってしまうが、問題の本質は(高度な知識を持った)整備士が不足している という事じゃないか。

  1. 世間を走っている自動車がどんどん高度化していく。
  2. いままではディーラーから街の整備工場までバランスよく対応していたが、街の整備工場では対応できない車が出始め、これらの車がディーラー等に回っていく
  3. ディーラーの負荷が上がり(街の整備工場の負荷は下がる)、不正検査に結びついていく。

こんな流れで発生していると考えるのが自然だと思う。

最後に

物事が高度化し、それに伴って負荷が二極化する領域・業界はまだまだ沢山あるはず。問題が具現化する前に予め対策をしないと自動車業界のような混乱につながるだろう。